「極楽通信・UBUD」



プラ(Pura = 神を祀る場所)





グヌン・ルバ寺院
■グヌン・ルバ寺院=Pura GunungU Lebah(2014年10月・撮影)


バリ人が信仰するヒンドゥー教の祈りをするための場所を、Pura(=プラ。バリ人はプロと発音する)と言う。
プラは、神々を祀った神所である。
日本の神社に近いのだが、英語で「temple」と訳したため、日本語でも「寺院」と言うのが通例となってしまった。
ここでは寺院と訳さず、そのままプラと明記することにする。


プラは普段、門が閉じられてひっそりとしている。
バリ島のプラは建築物ではない。
他の宗教では、教会やモスクのように礼拝するための場所は屋根付きの建物であったりするが、プラにはそういったものはない。
聖なる場所を取り囲む、開放的な一区域だ。
充分に塀の整っていないプラを見るにつけ、バリの宗教は建物より、お祈りの空間が重要なのではないかと感じさせられる。
神々は、常にプラに祀られているわけではなく、オダランにのみ天界から降臨するとされている。
その時のために、プラには神の座所となる祠や祭壇が建っている。
僧侶たちが呼ぶとき、そこに見えざる神々が座るのである。
ヒンドゥー教の宗教観は、天界、人間界、地界の三界に別れていると言われる。
天界、地界とをダイレクトに交感するためには、屋根があってはいけないのだ。
プラには、住職や神主といった意味の司祭はいない。
オダランは、プマンク(村人から選ばれた、そのプラ専属の僧侶)とブラフナ階層の高僧プダンダによって執り行われる。
プマンク、プダンダは、代々、ひとつの家系で受け継がれることが多い。


ヒンドゥー教が渡来したのが4世紀頃だと言われる。
そのころの信仰の場は、神の座所となる石だけがある広場だったと思われる。
本格的なヒンドゥー寺院の建立は、8世紀初めに渡来した高僧ルシ・マルカンディアの時代からだろう。
プラが現代のような種類と形態となるのには、永い年月がかかったと思われる。
プラにはシワ(Siwa)神、ウシュヌ神(Wisnu)、ブラフマ神(Brahama)の三神やサラスワティ(Saraswati)などのヒンドゥー神が祀られている。
さらにバロン(Barong)やランダ(Rangda)などの御神体。
各家にある神所には、祖霊神ブタロ・ブタリ(Betara-Betari)が祀られている。
バリのヒンドゥー教(ヒンドゥー・ダルモ)の教義では、ヒンドゥー教の神はただひとつで、それは唯一至高の神イダ・サン・ヤン・ウィディ・ワソ(Ida Sang Hyang widhi Wasa)であるとされている。
バリの存在するさまざまな神々は、イダ・サン・ヤン・ウィディ・ワソが現れたかりそめの姿に過ぎないという考え方だ。
これは、バリの信仰を、国家に公認してもらうために体裁であった。
その後この体裁は、パリサドと呼ばれる組織によって絶対なものになっていく。
パリサドの説明はアパ?から発売されている、吉田竹也著「バリ宗教ハンドブック」、もしくは 風媒社から発売されている、同じく吉田竹也著「バリ宗教と人類学」を参照してください。


それでは、現在の寺プラの形態を説明しよう。
プラは、聖なる方角である山側を背にして建てられている。
プラは塀に囲まれた敷地に、ジェロアン(奥庭。カランガッサム地方ではプリアンと呼ばれる)、ジャボ・トゥンガー(中庭)、ジャボ(外庭)3つに仕切られている。
奥に行くほど神聖な空間となる。オダランの際、プラ前の路上がジャボになる場合もある。
この場合は、竹塀で囲いがされる。
プラの第1の門は割れ門(Candi bentar)と言われ、入ってすぐの境内はジャボと呼ばれる外庭だ。
門を入ったすぐのところに、アリンアリン(Aling-Aling)という背の低い壁がある。
これは悪しきものの侵入を阻止するためのものだ。
悪しきものは真っ直ぐにしか進めないといわれている。
ジャボにはクルクル(Kulkul) の塔、調理場、米蔵などの簡単な建物がある。闘鶏場は外庭か、さらにその外にある。
ジャボないしジャボ・トゥンガーには、演劇やガムラン演奏のための建物(バレ・ゴン=Bale gong)や供物を安置するための壁のない建物がいくつかある。
オダランの際の世俗的な演目は、バレ・ゴンで演じられる。
第2の門は、屋根付きの門(Candi kurung)。プラによっては門にボモ(Bhoma)と呼ばれる、プラを悪しきものから保護する地界の神(魔)の彫刻がある。
境内はジェロアンと呼ばれる奥庭だ。ジェロアンには、メルー(meru)と呼ばれる多重層の屋根のある塔や祭壇、祠が並んでいる。



★それでは、プラの種類をあげてみよう。

1)慣習村のプラ
  プラ・デサ (Pura Desa)=ブラフマ(創造神)を祀り、繁栄を司る。
  プラ・プセ (Pura Puseh)=ウィシュヌ(守護神)を祀り、村の起源を司る。プラ・バレ・アグン(Pura Bale Agung)と呼ぶ村もある。
  プラ・ダラム (Pura Dalem)=シワ(破壊神)を祀り、葬儀を司る(プラ内で葬儀は行われない)
  以上の3つは、ヒンドゥー三大神(三神一体=トリムルティ)を祀りカヤンガン・ティガ(Kahyangan Tiga)呼ばれるだ。
  プラ・ダラムの脇(たいていは火葬場の近く)にある寺院は「プラ・ムラジャパティ(Pura Mrajapati)」と呼ばれ、山や森や木の神が祀ってある。

2)地域を越えた次元のプラや、王国ゆかりのプラ
  例:プラ・ブサキ( Pura Besaki)
    プラ・バトゥール(Pura Batur)
    プラ・ティルタ・ウンプル(Pura Tirta Empul)
    など

3)親族集団のプラ
  プラ・パンティ(Pura Panti)
  プラ・ダディオ(Pura Dadia)
  プラ・パンデ(Pura Pande)=鍛冶屋の集団

4)そのほかのプラ
  海のプラ(Pura Segara)
  丘のプラ(Pura Bukit)
  バンジャールのプラ (Pura Banjar)
  市場のプラ(Pura Melanting)
  スバックのプラ(Pura Subak)
  プラ・ベジー(Pura Beji)=ススオナン(ご神体)を清めるプラ。ベジーには湧き水が出ていて、プラで使われる聖水は、ここから運ばれる。

5)各家にある神所
  プラとは呼ばない
  スドラ・カーストの神所・サンガ(Sanggah)
  トリワンサ・カースト(サトリア、ウェシャ、ブラフマナ)の神所・ムラジャン(Merajen)

  これ以外にも、まだまだ名称の知らないプラはたくさんあるが、今回はひとまずここまで。


※最後に、プラ見学について説明しよう。
大きなプラ以外、ほとんどのプラは門が閉ざされていて、普段は入ることができないと考えて良いだろう。
もし、入ることが許される機会に恵まれたら、貴方は最低限のマナーとしてカマン(腰布)とスレンダン(ヒモ)をしなければならない。
入場可能なプラでは、入口でカマンとスレンダンが有料で貸し出されていることがある。
また、オダランに参加する場合は、正装して出掛けるのがベストだろう。
バリ人は、外国人が自分たちの宗教を理解しようとしている姿を見るのが好きだ。
われわれツーリストの心がけひとつで、素晴らしいバリ体験できるはずだ。




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