「極楽通信・UBUD」



クボ・イオ(Kebo Iwa)





バリには、10世紀から14世紀まで栄えたワルマデワ王国があった。場所は、今のブドゥル村を中心にしたペジェン村周辺だと考えられている。
1343年、マジャパイト王朝のガジャ・マダ将軍率いる軍勢によって、400年間続いたワルマデワ王国は制服された。マジャパイトは、1293年から1520年まで東ジャワで栄えた王朝だ。


14世紀のワルマデワ王国に、ひとりの伝説の男がいた。
名前をクボ・イオと言う。
大男の伝説は他の国にもある。ガリバーは有名な話だ。パラオにはクボ・イオに似た神話があった。パラオは現地では、おとぎ話という意味のベラウ(Belau)と呼ばれている。島民にバラバラにされた大男の亡骸がパラオ諸島になったという話。
バリの大男クボ・イオには、どんな結末が待っているのでしょう。
クボ・イオは、ワルマデワ王国最後の王ブダウルの家臣で、雲をつく大男で怪力の持ち主だったと言われている。


マジャパイト王朝は、バリを支配下に置くためガジャ・マダ将軍とその部隊を派遣した。ガジャ・マダ将軍はブドゥルに王宮を構えていたブダウル王を殺し、あっという間にバリを手中に収めた。しかし、バリには巨人クボ・イオがいた。クボ・イオがいる限り、ワルマデワ王国を完全には制服できないと判断したガジャ・マダ将軍は、クボ・イオの暗殺を企てる。
連行し、ジャワ島に引き上げる船の上からクボ・イオを落として溺れさせる計画を立てた。しかし、クボ・イオの足が海の底についてしまい、計画は失敗した。
都に戻ると、ガジャ・マダ将軍は、王妃をめとらせるという約束する。そして、王妃のために沐浴場を造るように命じた。クボ・イオは命じられるままに沐浴場用の深い穴を掘り始める。ガジャ・マダ将軍は穴の中にいるクボ・イオを生き埋めにしようと石を投げ入れるが、クボ・イオは石を放り出して這い上がって来た。またもや、計画は失敗に終わった。
クボ・イオは「私を殺すなら石灰の中に投じるがいい」と、ガジャ・マダ将軍に教える。ガジャ・マダ将軍は言われるままにクボ・イオを石灰窯に投じた。こうして、ガジャ・マダ将軍はクボ・イオの暗殺に成功した。('96〜'97版、地球の歩き方・バリ島参照)


また、伝説の巨人「クボ・イオ」には、こんな言い伝えもある。
昔々、小さい村にひと組の夫婦が住んでいた。夫婦には子供がありません。子供が欲しい夫婦は、毎日のように神に祈りました。神に祈りが通じたのか、夫婦に男の子が授かります。夫婦は、大喜びし、名前をイオ(Iwa)としました。
しばらくして、夫妻は、息子の意外な面に気づきます。
イオは生まれるとすぐ、母乳の代わりに、ご飯を食べるのです。毎日毎日、たくさんのご飯を食べ、発育は早く、またたくまに大人と同じくらいになりました。
イオは大きく強いので、村人はクボ(Kebo=水牛)と呼ぶようになります。大食いのクボのため、夫妻の財産は瞬く間に無くなっていきます。夫婦はクボの世話が大変で、村人に相談します。村人は、クボのため夫婦ともども食べ物を与え、長さ30メートルもある寝所を作ります。それでも、クボの足は建物から飛び出してしまいます。
村人はクボのために、たくさんの食事を用意しなければなりません。クボ専用の台所も建てました。クボの沐浴場は、島の中央にあるブラタン湖です。ブラタン湖までは、普通の人には一泊の旅でした。クボには安易な距離だったのでしょう。クボの身体は、今、沐浴から帰ったばかりのように瑞々しいのです。
クボは喉が渇いた時、地中に指を突き刺します。すると、それは井戸になってしまいます。
クボの大食のため、村人は彼に充分に食事が用意出来なくなってきます。
ある日、空腹に飢えたクボは、気が狂ったように暴れ回りました。指で弾いて寺院と家々を破壊したのです。
村人は、これは一大事とクルクルを叩きます。村の集会が召集されました。
「クボが空腹になるということは、彼は我々と同じ人間だと言うことだ。人間ならば力ずくで、破壊を止めさせることができるはずだ」と村長は言います。
クボは、牛と豚を追い、食べた。クボは、生きているものなら何でも食べられるようだった。
再び、村のクルクル鳴り響いた。村人は、状況を検討するために集まった。対抗する必要があることは明白だが、誰からも良案が提出されなかった。最後に、ひとりの老人が話し出した。
「私達は人間である。神は、我々の精神に力を与えてくれた。我々の力はクボにはかなわない。しかし、何かをしなくてはならない」
「それでは、どんな方法がありますか?」
「我々は、もう待つことができない」
「私には、クボをうまくだます計画がある」と老人は答えた。
誰もが、老人の計画が唯一の方法であることを知り同意します。
その時、クボは穏やかに横になっていた。この機会が、クボと話す絶好のタイミングだった。
村人はクボに、彼が破壊したすべてのダム、寺院、家々を再建し、バリ島の田んぼの水源を作り、稲の収穫を増大させるために深い井戸を掘ることを願い出た。その変わり、食べられた牛と豚、失われたすべてのものに対して要求しない、そして今後、これまで以上に充分な食物を保証することを約束しました。
クボは承諾し、数日内でダム、寺院、家々を再建してしまいます。
そのあと、クボはバトゥール山麓に深い井戸を掘り始めます。クボは、道具を使わず手だけで、どんどん深く掘っていきます。穴からは、掘っても掘っても石灰石が出て来ます。
クボは「何で石灰石ばかりなのか?」と尋ねます。
「井戸の水を制御するために建てられたダムだからです。掘り出した石灰石は、仕事のお礼として与えるので家を作りなさい」村人は答えます。
クボはこれまで、自分の家を建てることを一度も考えたことがなかった。これを聞いたクボは嬉しくなりました。クボは食後、再び仕事を続けるために井戸に降りて行きます。
クボは疲れたので、働くのを止めて井戸の底で横になりました。
クボがいつまでも作業を再開しないので、村人は、彼が地中に落ちて死んでしまったと考えます。
突然、雷鳴のような音が響きます。この音を聞き、村人は、クボが眠っていたことに気づきます。深く大きないびきは、何度も響きます。
村長は、掘り出された石灰石を井戸に投げ入れる合図をします。すると水が上がって来ます。クボが眠ったまま浮かび上がってきました。
クボは、水により持ち上げられたのを気がつかない様子です。村人は、できる限り早く石灰石を投げ込みます。しだいに、石灰石はクボの足、身体のまわりに積み重なっていきます。やがて、石灰石は鼻の高さに達します。
クボが眼を覚ましました。クボの息は苦しくなり、石灰石は肺をヤケドさせるほど熱くなっていきます。クボは驚き、井戸から出ようとしますが、石灰石は水と混ざり身体を固定しています。
村人は、クボが完全に動けなるまで石灰石を投げ込みました。
クボは、死を予感した。
村人は、それを見て驚嘆します。クボの眼は寂しく光り、しだいに死を受け入れる準備をしているのがわかりました。水は、クボを完全に隠してしまいました。井戸の水は溢れ出し、見る見るうちに広い湖を作ってしまいました。
湖はバトゥール湖と呼ばれ、現在、バリ島の水源地となっている。(FAVOURITE STORIES FROM BALI参照)
老人が考えた「クボをだます計画」とは、クボの暗殺だったのです。村人に騙された結果、クボは良い行いをした人物として後生に名を残すことになったわけです。が、私としては、結末に腑に落ちないものを感じている。


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プクリサン(Pekerisan)川のほとりにある。 クボ・イオの庵(いおり)で、瞑想場だったと伝えられる。
ゴアは「洞窟」を意味し、ガルバは「地球の腹」を意味する。
沐浴場の横に地下へもぐる階段があり、遠くクルンクンの「ゴア・ラワ」に通じていると言われる洞窟がある。
もしかすると、この洞窟が「地球の腹」と呼ばれるガルバかもしれない。




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