「極楽通信・UBUD」



64「神道とバリの信仰 」





『日本人なら知っておきたい・神道』を手にして、ちょっとビックリしています。(武光誠:著)
これは私の勉強不足からくる驚きだが、神道の草創期とバリ人の信仰するヒンドゥー・ダルモとがとても似ているということ。
神道もバリ人の信仰も宗教ではない。 どちらもやおよろず八百万を信仰する。
一神教が現れる以前の古代信仰は、世界中どこも精霊崇拝だったと考えるのは飛躍し過ぎだろうか。

バリ人の信仰は、インドネシア政府に認められているイダ・サンヤン・ウィディ・ワソ=Ida Sang Hyang Widhi Wasa(唯一至高の神)を崇める一神教『アガマ・ヒンドゥー』だ。
バリ人は、アガマ・ヒンドゥーと呼ばずヒンドゥー・ダルモと言う。
ダルモ(dharma)は 「義務、生活の綱領」の意と辞書にはある。
バリ人の信仰は “道徳” に近く “慈愛”に溢れている。
ウブド・タマン村ダラム寺院とデサ寺院の祭礼時(2004年3月)に配布された日本語の小冊子には、「ダルモは、仕事、食事、就寝、芸術的な祈りにいたるまで、バリ人の日常生活全てを決定していると言えます」とあった。
著書には、「神道の神は “人間が生まれながらに持っている良心である” と説明できるかもしれない」とある。また「自然を大切にする考えは、人類が生まれながらに持ち合わせている本能から来るものである」とも言っている。
日本では、より多くの人に好かれる者がよい人間だとされる。神道的発想によって、常に周りの人々の気持ちを考えながら生きているのかもしれない。
この神道の精神を背景にした日本人的な振る舞いが、日本特有の「義理」「人情」などで結ばれたよい人間関係をつくってきたのだろう。
大部分の日本人は、幼い頃からの家庭教育の中で、知らず知らずのうちにこの神道を身につけてきたのだ。
日本人観光客がバリ島をリピートする理由は、バリ人が持つ心根が日本人と同質である親近感からではないだろうか、とフッと思った。


ブサキ★アグン山の麓に建つ「ブサキ寺院」


◎気になる類似点を抜き出してみた。
★印は、著書からの抜粋。この部分がほとんどバリ人の信仰と通じていた。

★古代神道
最初に神と祀ったのは、太陽ではなかっただろうか。
闇には、恐怖を抱いていただろう。
太陽は彼らとって救いの光だったはず。
☆バリでは、太陽神のことをスルヤと呼ぶ。

「大昔の人々は、多くの神々のはたらきによって生かされている」という考えをもっていた。
信仰の根本は、大自然に対する恐れや尊敬の念、人間の力の及ばない自然の驚異にも畏怖を持ったことだろう。
あるいは神秘的なもの対する驚きにあるはず。
見えない不思議な霊力を奉った。
山、川、海、風、雨、嵐などといった自然現象に霊魂を感じ、それを神々として祀った。
縄文時代(紀元前13000年〜紀元前200年頃)、縄文人は、多くの精霊の中の自然界を構成する「地、水、火、風」の4大精霊を特に尊敬し、大樹に、巨石に、湖など、きわめて多くの精霊崇拝にもとづく神々が祀られてきた。
天にも地にも密林の中にも岩にも、精霊や邪霊が棲んでいると信じている。
果物、野草、狩猟で獲った獲物など、あらゆる自然の恵みを神から授かり物と考えていた。
自然に聖なるものを感じ、自然と調和し、自然とともに生きようとしている。
☆バリ人は、すべてのものは神からの授かり物と感謝して、有り難くいただくという精神が根底にある。

★祖霊信仰
弥生時代(紀元前200年頃)が始まり、農地を開発して水稲耕作によって食糧を得る生活を始め稲を育てるようになり、太陽と水の恵みを重んじるようになった。
田畑を耕し、水をひき、種子を蒔くのは農民である。しかし、蒔いた種子を育てるのは自然の力である。
稲の生育などの自然の恵みをもたらすのは、神の働きであるとした。米や麦の収穫は、人間の労働の成果ではなく、神の恵みによってもたらされたものだと考えられてきた。
農耕生活が始まると、農耕地を造ってくれた祖先の霊として、祖霊信仰が強まった。
「祖先が苦労して山野を拓いて、水田を興してくれたおかげで、私たちは安定した生活ができる」
農耕民には神様でなく祖先が水田を与えたと考え、先祖の祭りが重んじられるようになる。
死者の霊魂は神となり、子孫を見守り、その繁栄をもたらす。
多くの祖先の霊が家を守る。
「亡くなったお祖父さまは、これから神様になって残された家族を守ってくれる」
そうなると、身近な者の死を深く悲しまなくてすむ。
「顔を知らない遠い祖先たちも守ってくれる」
そう考えて人々は、元気づけられている。
祖霊は、普段は神々が集まる山に住み、家庭で神を祀る時に御霊舎にやってくると考えられていた。
これが神棚だ。
☆バリの屋敷寺は神棚に相当する。祖霊の祠はデオ・ヤン(Dewa Hyang)と呼ばれている。

★集落の形成
精霊崇拝を通じて、まとまった小集団が出来る。
古くから生活をともにする家族のつながりが重んじられ、そのため、家族がそろって家を守る神をまつる風習が作られる。
一つの集落で血縁で結ばれた一族一門が、まとまって生活する社会がつくられていた。こういった時代の守り神は、その地域の人々の祖先神とされた。
生活の基本となる共同体単位の祭りが重んじられて、村落でまとまって土地の神や血縁集団の神を祀る。

★神社
神はいつも自分と共にある。普段から神の心に叶う生活をすることが大切なことだとされ、人々は日常に神の存在を信じている。
集落が出来るにつれ、集落の人々が信仰のために集まる特別な場所を必要とした。
その場所は、大きな木の周辺や巨石、あるいは集落の近くの丘や山だと考えた。こうした祭場が発展して神社となった。
あらゆる場所に神がいるとする彼らは、神は、人々が集まる場所に寄ってくると考えた。

集落には、100人から200人程度の血縁者の集団を単位にして生活していたとみられる。
集団が、各自の方法で多くの神を祀り、また自分たちの土地を拓いた祖先神を祀っていた。
神は人々に自然の恵みを与えるが、個人の勝手な願いは聞き届けられない。
正直な人間は、あれこれ祈らなくても神々の守りを受ける。
自然の恵みに感謝して、自分が住む土地に集まる多くの霊魂(神)をもてなして祀る。多くの神を祀りながらも、祭りの場を一カ所にする曖昧なかたちの多神教といえる。
神社は、神を祀る場であるとともに、自分の身を浄める場でもある。
神とのコミュニケーションをの場所。
☆バリでは「プラ=Pura」がこの役目をする。

★祭り
神社は、神の関わる祭りを通じて様々な交流をおこなう場である。
祭りは本来、個人の祭り、家の祭り、集落の祭りの三層からなるもの。
先祖の祭りは、この家の祭りを重んじるは発想から創られたものである。多くの祖先の霊が家を守るという考えにもとずく行為だ。
集落の祭りは、すべて人間を善良なものとみて、みんなが同じ願いをもっているとする前提のもとにつくられた。
祭りは、人々のためにするものではない。土地を守る神にできるかぎりのもてなしをするための祭りがつくられた。
人々が神々に感謝の意を捧げるために、あるいは、己の存在を神々に知らしめて加護を願うために行うものだ。
祭りはご馳走を神に供え、神楽などを演じ、神輿で神をあちこちおつれするかたちをとる。
神と人間がともに音楽や芸能を楽しみ、明日から生きる活力をつけようとする発想でなされる。
供物や芸能は、そのために必要とされるもの。
人々はお供えのお下がりをもらうことによって、神とともに食事をする。
農民が、その年はじめての収穫を供物とすると同じように、芸能を奉納する。
オダラン=Odalan(寺院建立記念祭)も共同で執りおこなわれ、集団の絆を強める場でもある。
こうして、村人総出ということで、疎外される人を作らない。

★「穢れ」と「祓い」
死穢(しえ)、血穢(けつえ=女性が生理で体調を壊すこと)などを、生命力の枯渇を思わせるものとして忌む(避ける)べきものとされた。そのため、身内から死者を出した者や生理中の女性は、自分の穢れを他人に及ぼさないように引き籠らなければならない。
神道もバリ人の信仰も、それぞれ神社・寺院内で葬儀を執り行わない。
穢れを浄めることを「祓い」という。
祓いは、自分の心を浄める行為である。たとえば、罪を犯してしまった者が、水で身体を浄めること(禊祓みそぎはらえ)などによって、人々に「これからは清らかに振る舞い、2度と罪を犯しません」と誓う。
川の流れや海で身をすすぎ洗い清めてから、お祓いを受ける。
神社の手水舎で手と口をすすぐのも簡略された禊祓。
他にも、水行、滝行、水垢離、寒垢離、斎戒沐浴など様々なものがある。
☆バリには「ムルカット=Melukat」と呼ばれる習慣がある。

★結婚式
結婚は、本来は家の中で完結する行為であった。
神道の結婚式は家庭で行われていた。
それは、家を守る神の前で、新郎と新婦とがともに生きることを誓い、そのあとで神々を家に迎えて家族、親戚や近隣の住民とともにご馳走を食べて2人を祝福するものであった。
☆バリ人の結婚儀礼も屋敷内にある儀礼用の建物を中心にして屋外で繰り広げられる。

神道はもともと、人間の持つ良心に対する全面的な信頼の上に創られた宗教である。
そして、人々の善悪に対する判断は時代とともに変化し、神道もそれに合わせて変遷していった。
☆バリ人の信仰もインドのヒンドゥー教、仏教の伝来で混合していったが、精霊崇拝は崩れず、おおむねそのままのかたちで今日も受け継がれている。

以上、類似点をおおざっぱに抜き出してみた。
本には、もっとたくさんの類似する箇所があると思うが、わたしにはこの程度しか理解できなかった。
あとは読者の方で加筆してください。
※『日本人なら知っておきたい・神道』著:武光誠(明治学院大学教授)/河出書房新社・2003年7月5日初版発行


(2014/4/9)




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