「極楽通信・UBUD」



12「乱立するウブドの定期公演」





ウブドの夜は、ガムランと舞踊の豊饒な香が漂う。
すこし詩的にはじまった今回のテーマは、ウブドの飽和気味の定期公演とジェゴグの乱立についてだ。
毎夜、いくつかの会場で芸能の定期公演が催されているウブド。それが、芸能の村といわれる由縁でもある。

ウブドのサレン王宮、プリアタンのアグン王宮、パダンテガル村の南北2つの集会場、アルマ美術館のステージなど、平均すると、1日4カ所でレゴン、ケチャ、バロンなどの芸能公演がある。演目が同じだったりすると、ツーリストはどこにしようかと選択に迷ってしまうほどだ。すべてを観ようとすると1ヶ月をついやする。われわれツーリストにとっては選択肢がたくさんあって嬉しい反面「多すぎるのじゃないか」という気もする。

ツーリストに観せるための芸能は、ウブドの観光化にともなって発展した。観光化は、ウォルター・スピースの出現によって加速度化したと思われる1930年代頃からだ。その当時は不定期の公演で、サレン王宮が所有するグループの公演が最初だったそうだ。
定期公演が本格的に行われるようになったのは、1980年に入ってからだろう。その頃には、ウブド、プリアタン、パダンテガルの村々が村(バンジャール)の収入源として、スコと呼ばれる村のグループが参入していた。その後1990年からは、スマラ・ラティのようなプロ集団が公演するようになり、これらが、それぞれ独自に公演を行っている。
いくつかのグループが姿を消し、また、いくつかのグループが公演をはじめ、さらに、近隣の村でジョゲッ・ピンギタンやゲンジェカンのグループなどが参入しようと計画している。

ウブドは今、バリの芸能が一堂に集められ、まさに「芸能の博物館」化しようとしている。
2002年からは、ジェゴグの定期公演が始まった。ブントゥユン村のグループが週2回に、ウブドのグループが週1回の公演だ。2003年には、新たに、マス村でジェゴグの定期公演が行われるようになった(2004年に消滅)。それも、週2回、1日2回公演だ。こうなるともう、自称ジェゴグの人気の仕掛け人であるアパ?としても、呆れてものが言えない。
ご存じのように、ジェゴグは、巨大竹筒打楽器のアンサンブルだ。発祥の地は、バリ島西部ジュンブラナ県ヌガラだ。現在、ヌガラのサンカル・アグン村で、老舗グループ、スアル・アグン歌舞団が月2回の公演を行っている。

ジェゴグの定期公演にひとこと言っておきたい。
これまで個人的にチャーターするしかなかったジェゴグは、極めて観る機会の少ないものであった。本場ヌガラで観るジェゴグの定期公演は、アパ?が初めて行った、希少価値のあるイベントだった。
アパ?のポリシーは、廃れていく芸能や、素晴らしいと思われる芸能を、多くのツーリストに観る機会を与えたい、また、地元の伝統芸能を大事に育てていこうという考えからツアーを組んでいる。
ツーリストにとっては、ウブドに行けばあらゆるバリ芸能が観られるというのは、確かに便利である。しかし、アパ?は、そこで生まれたものは、その土地に行って、その土地の空気を感じて観て欲しいと考えている。
アパ?のジェゴグ公演は、ジェゴグ発祥の地、ヌガラまで出かけての鑑賞だった。サンバは、日本の夏祭りのイベントで観るよりは、本場ブラジルに行って観るのが一番だろうし、自由の女神は、遊園地のまがい物を観るより、ニューヨークで本物を観る方が感動するだろう。
アパ?がツアーをはじめた頃は、おんぼろベモ(乗り合いバス)をチャーターして、片道4〜5時間という道のりだった。今では、道路も整理され、2時間半で会場に到着する。ベモは、排気ガスをまき散らし、乗客の顔も煤けて真っ黒だ。途中、ランブット・スウィで小休止。そんなことも、思い出の一つでもあった。
当初は月に1度の公演だった。はじめは、客も集まらず、毎回赤字であった。それでも、スタッフはジェゴグの魅力に取り憑かれたように公演を遂行した。少ない情報ではあったが、年々ファンは確実に増えていき、2〜3年すると情報も行き届くようになり、人気も急上昇した。そして観光シーズンには、黒字になることも多くなった。
是非観賞したいという、ツーリストからの要望が増えると、アパ?の公演は月隔週で2度となった。理由は、要望が多かったかたということだけではなく、1度の公演で観客は50人以内に留めておきたいという希望があったからだ。会場の都合もあるが、これ以上の人数になると、聴くだけで精一杯で、体験するという感覚が薄くなってしまう。
確かに、ヌガラまでの道程は遠い。しかし、それだけの価値はあると思う。そのツーリストの行為が、伝統芸能を保存するのに役立つのだ。 時代の流れにアパ?のポリシーが守りきれず、残念ながら、アパ?のジェゴグ定期公演は、役目が終わったかのように2000年で中止となった。

はじめに書いたように、ウブドでありとあらゆる種類のバリ芸能が、簡単に観られるようになったのは、ツーリストとしては喜ぶべきことなのかもしれない。しかし、そのために地方の数少ない観光資源である芸能を奪うことになっては、いけないのではないか。できることなら、ジェゴグは発祥地ヌガラで見いて欲しいものだ。みなさんもバリの芸能がむやみにウブドに集中しないように協力し、地方芸能の保存、育成を応援しようではありませんか。




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