「極楽通信・UBUD」



13「コミッシー、賄賂、そして寄付」





バリに初めて来て「この島は、コミッションで経済が成り立っているところだな」といきなり《まと》を得た指摘をした日本人がいた。
友人のインドネシア人イワン君に、この話をすると「そうですよ。だから、バイクや車のナンバープレートの数字の前にDKとプリントされているんだよ」とユニークな答えが返ってきた。
日本なら名古屋、なにわ、品川と書いてあるところに、ジャカルタ車だとB、スラバヤはL、バンドンはDと記載されてある。バリはDKの2文字。これらは単なる記号だと思うが、本来の意味はわからない。
DKとは、Daerah Komisi(ダエラ・コミッシー)の頭文字だ、とイワン君は揶揄する。Daerahは「地域」の意で、Komisi はオランダ語からインドネシア語になった言葉で、英語の「コミッション」と同意語だ。Daerah Komisiとは、コミッション地域というわけだ。

オランダは、300年の間インドネシアを領地とした。そんなことから、インドネシア語には多くのオランダ語が使われている。5000の単語がオランダ語だ、とオランダ人のツーリストが言っていた。ベルギーもオランダ語が公用語なので、インドネシア語を覚えるのは早いです、とこれはベルギー人が言っていた。
コミッシーの語源はさておき、バリを訪れたツーリストが必ずといってよいほど経験するコミッシーの話をしよう。買い物でぼられるのが《通過儀礼》とすれば、コミッシーは《洗礼》のひとつと言えよう。


プラマ社のシャトルバスでウブドに降り立つと、いきなり10数人の男たちに取り囲まれる。宿泊施設の客引きである。右手を振って通り過ぎようとしても、バイクで後からついてくる。これが、うっとうしかったり、恐かったりするツーリストが多いが、彼らは、客を案内することで、ホテルやバンガローから紹介料としてのコミッシーをもらって生計を立てている人たちだ。特定の宿と提携している者もいるが、たいていは、どこの宿でも、客を連れて行けば、彼らはコミッシーがもらえる。そんなわけで、客が気に入るまで宿を探し求め、宿泊費を値切っても彼らは文句を言わない。

また、ジャラン・ジャラン(散歩)していて、「レゴン、レゴン」「バロン、バロン」「ケチャ、ケチャ」などと、声を掛けられることがある。これは、毎夜各会場で行われている定期公演のチケットを売っている人たちだ。彼らはチケットを売ると、決められたバックマージン(コミッシー)が返ってくる。チケットは各会場から預かっているもので、入場料はチケットに金額が明記されており、ふっかけられることはない。彼らはこの収入で生活している。

ツアーの途中、連れて行かれる店のコミッシーについて、ひとこと言いたい。ツアーで立ち寄る店は、すでにツアー会社とかなりパーセントの高いコミッシー契約をされている。ツアー料金はすでに払われているのだから、ツーリストの好きなところへ寄ってくれればいいものを、ガイドは、副収入のあるコミッシー契約店に寄ることは承知するが、ツーリストの希望する店が契約店でない場合、あからさまに嫌な顔をする。
チュルク村のシルバー店やキンタマーニ高原のレストランは、ツアー会社やガイドにコミッシーを支払われている。ツアーで連れて行かれる土産物屋やギャラリーなど、ひよっとするとすべてかもしれない。病院でさえ患者を紹介するとコミッシーがあると聞く。
バリがこんな島であることを、ツーリストは理解する必要がある。われわれ日本人には、慣れない好ましくない習慣だが、これがこの島の商習慣だからしかたがない。それでこの島の経済が成り立ち、すべてのことがスムーズに運ぶわけでもあるのだ。


コミッシーは、商売として理解できる。困ったことに、バリでは賄賂が大手を振ってまかり通っている。税関や警察、はては学校まで賄賂を求める。バリだけでなく、インドネシアの国自体に、賄賂の体質があるようで、大統領を筆頭にして、ピラミット状に末端の公務員までが、当然のように請求する。
もっとも賄賂は日本でも、まかり通っている習慣でもある。一般的には、中元、歳暮の習慣。政府高官や大企業などは、賄賂の大小によって利害関係のパイプの太さに違いが出てくる。
しかしバリは、役所までこの体質なので困ってしまう。物事をスムーズに運びたい時は、袖の下をつかませるしかない。金さえ払えばスムーズにいくというのは、道徳的には許せないが、ある意味で金で解決できてしまうので、便利とも言える。


もっとも納得できないは、寄付だ。
警察署が資金集めのために、カレンダーやTシャツ、柱時計などを半強制的に販売する。何の資金かも充分に説明されない。センスも悪いし値段も高いので断りたいのだが、断るとあとから何か邪魔をされそうで、5枚買ってくれと言うところを、旨く断って1枚にしてもらうのが関の山だ。
寄付とは違うが、警察が結婚式のパレードやバイク・ツーリングなどの先導をして、署の収益にしたり、軍隊などは、クレーン車やシャベルカーなどの特殊自動車を貸し出したりする。警察も軍隊も予算が足らないので、よくアルバイトをする。これがインドネシアの実情だ。
村の組織は、何かの計画があるたびに、外国人滞在者に当然のように寄付を求めることがある。例えば、祭礼の準備資金、寺院や集会所の改築などなど。納得してする寄付なら、問題ないのだが。たいていは、個人の都合や意識は無視されて、一方的に寄付金を割り当てられて払わされることが多い。村人より長期滞在の外国人の方が、寄付金も多く徴収されているような気がするのは、わたしの思い込みか。長期滞在の外国人は、これも生活に支障をきたす邪魔をされる恐れがあるので、納得していなくても渋々寄付をする。
バリ人は、他力本願なところがあるように思う。あまり外国人を当てにするな、と言いたい。しかし、バリ人にも言い分があるだろう。先祖代々、気の遠くなるような供物と祈りで、大切に守ってきた土地。だから、外から来て好き勝手なことをしている外国人が、少々のコミッシー、賄賂、寄付などを要求されても仕方がない。そう言われれば、そうかもしれないな。


3月(2004年)に、こんな事件が起きた。サヤン村にあるホテル・フォー・シーズンズで、近隣の村人による投石、通用路破壊などの暴動だ。カマを手にしている者も数人いたようだ。
発端は、ホテル側の契約違反だということだが、この契約自体、客観的にみて、おかしなものだった。
その契約は、こうだ。ホテルの建築にあたり、地元村民からの要求は、ホテル・スタッフの50パーセントを地元から雇用して欲しいということであった。フォー・シーズンズは、5つ星の高級ホテル。スタッフは、それなりにホテル教育を受けた者でしか、通用しない。それを教育の充分でないスタッフを雇えば、あとで問題が起こることは眼に見えている。しかし、ホテル側は、あえてその要求をのんだ。ところが、オープン後、バリは観光客の激減という不景気に見舞われ、多数のスタッフが解雇されることになった。
事件は、ホテル側の契約違反に対する村人の暴動であったが、その後持たれた話し合いでは、村人は雇用問題を棚上げし、ホテル側に多大な寄付の要求をした。寄付の目的は、村の公共施設を作るためだと言う。その金額は、この不景気時期に払うには破産を宣告するようなものだったらしい。バリ人の多くも、この要求にはあきれていたようだ。


まあ、そんなこんなのバリですが、コミッシー、賄賂、寄付、これらのことを除けば、バリはわれわれ外国人にとっては住みやすいところです。

(2006/11/23)




Information Center APA? LOGO