「極楽通信・UBUD」



19「バリの新年」





2005年、元旦

熱帯の太陽が、草、花、木々を眠りから醒ましてゆく。
わたしにとって、バリで迎える15度目の新しい年の夜明けだ。
新年は年に一度、自由に使いなさいと、すべての人に同じ条件で配られる真新しい一枚の白い布のようだ。
無垢な白い布をどう使うかはその人しだいというわけだ。
バリ人は、バリの伝統的な暦に基づいて生活している。
210日を一年とするウク暦と、新月からつぎの新月までを1ヶ月とし、12ヶ月を1年とするサカ暦のふたつだ。
バリ人にとっての新年は、ウク暦の祖霊が還ってくるガルンガンの祭礼や、サカ暦の静寂の日と呼ばれるニュピだろう。
彼らにとって西洋暦の新年は、まったく関係ないものと言ってもよい。

「謹賀新年」なんてあらたまった気持ちになろうにも、まわりのバリ人が普段とちっとも変わらない生活を送っていてはとてもそんな気分になれない。
それでもなんとか正月気分を味わおうと、長期滞在の仲間が集まってバリで用意できる食材でおせち料理もどきを作ってみたり、おとそ代わりに日本酒を飲んでみたりと試みる。
ところが、外は椰子の木に強い陽差しがガンガンと照りつける風景だ。
これでは、焼け石に水で、いっこうに雰囲気がでない。
日本でのわたしの正月は、こたつに足を投げ入れ、みかんの皮を剥きながらと相場は決まっていた。
寒くない正月なんて、富士山の頂に雪がなくなったような風情のないものだ。
今年も、そんな味もそっ気もない正月を向かえた。

初詣、年始回り、新年会もないウブド生活だが、年末年始にかけて一年に1度、故郷に帰省するかのようにウブドを訪れる友人たちの対応で、わたしは慌ただしい日々を過ごす。
正月三が日も過ぎると台風一過、旅行者が去りはじめる。
こうしてわたしに一年が始まる。

読者の方には申し訳ないが、この原稿は「バリで踊る・その一:プナタラン・クロンチョン寺院」の巻頭の引用で、バリで迎える8度目が、15度目に変わっただけだ。
こうしてみると、わたしのウブド滞在15年間は、いつも同じような正月を迎えているようだ。

「一年の計は元旦にあり」
さて、今年は無垢を白い布をどんな風に使おうか。そして、どんな1年になるか楽しみだ。




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