「極楽通信・UBUD」



24「トゥアック(Tuak)」





トゥアックというバリの地酒を、知っていますか?
普通われわれツーリストが飲むことができるバリ島の地酒は、米から作られるブラムと椰子の樹液から作られるアラックではないでしょうか。
ブラムは発酵酒、アラックは蒸留酒なので、ある程度の日持ちがします。しかし、トゥアックは椰子(ジャコー(Jaka)椰子、ロンタル椰子など)の樹液がそのまま酒なので日持ちがしません。そのためにあまり見かけることがありません。
お気づきになったと思いますが、トゥアックを蒸留したものがアラックです。取りたてのトゥアックを煮込むとグラ・バリ(グラ・メラ)、グラ・アレンといわれるパーム・シュガー(椰子砂糖)になります。
タバナン地方の山奥で、煮込みの途中の液体に卵の黄身を入れてジャムー(バリの漢方)として飲む習慣がある。ほのかにトアックの味と香りがする。固める前にドロドロの状態で嗜好品として飲むこともあるようだ。これは、もうほとんど黒砂糖を飲んでいる感じだ。
トゥアックは、ウブドの市場(パサール)で売られているそうですが、早朝でなくなってしまい、これもツーリストには手に入れることが難しいようです。

ウブドの北4キロほどにあるスバリ村に夕刻出掛けると、仕事を終えた村人がマンディも済ませ、ワルンで一服しながら雑談をしている風景に出会う。その村人たちは、手に手に白い液の入った 小さなコップを持っている。そうです、この中身がトゥアックなのです。夕涼みの2〜3杯のトゥアックが、この村の男たちの楽しみのひとつ。村人たちのこんな日常的な酒がトゥアックなのです。
男たちが5人〜10人集まり、トゥアックを飲みかわすうち興にのると、ゲンジェカンと呼ばれる歌が唄われる。それはケチャッとバリの民謡を足して2で割ったようなリズミカルなアドリブの唄で、時には踊りだす者もいると言う。

ロンタル椰子から採られるアルコール度の強いトゥアックの産地カランガッサム地方では、トゥアックを飲み交わし歓談する集まりを[Metuakan]と言い、村人の娯楽のひとつとなっているそうだ。この地方では、ゲンジェカンはチャカプン(cakapun)と呼ばれているようだ。チャカプンは、ゲンジェカンのルーツでもある。


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(写真1)


それでは、ジャコー椰子(写真1)からトゥアックを採る様子を説明しましょう。
ジャコー椰子は、ココ椰子よりひとまわり幹が大きく(直径50センチ位)葉も大ぶりです。すらりと伸びた幹のてっぺんに、大きな葉が放射状につきます。その大きな葉の間から、花のつく枝が出てきます。直径10センチほどの枝の先っぽには、まるでレゲエのラスタ・ヘヤーのような花が鈴なりになります(写真2)。


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(写真2)


枝を、花の根元でストンと切り落とせば、その切り口からトゥアックとなる樹液が出てくるのです。はじめ、幹のてっぺんについていた花のつく枝は、だんだんと低い位置につくようになり、最後は根元近くになって終わります。根元の近くの手の届く位置までくると、もう採るのをやめるのだそうです。
●まず、花がつく枝が熟す時期を待ちます。このタイミングは、花が咲く寸前のようです。
●そして、熟した枝を木槌で叩いたり、しならせたり、塩をつけてマッサージしたりして枝をほぐして樹液が流れ安くしてやります。
●次に、花に近い部分で枝を切り落とします。切り口から始めは水分が出てきますが、それは捨てます。そのあとに、乳液のようなものが滴り落ちてきます。それがトゥアックと呼ばれ、飲まれるものです。
●切り口の先に竹筒をぶら下げてトゥアックを貯めます(写真3)。1番はじめに採ったトゥアックは甘くて美味しい。そして、非常に強いそうです。


トゥアック.jpg
(写真3)


●1日に2〜3回、竹筒からトゥアックを取り出すことができます。
●切り口が固くなりトゥアックが出なくなると、切り口を薄く切り取ります。すると再びトゥアックが出始めます。
●3ヶ月ほど繰り返すうちに枝は短くなり、切り口が幹に近づき切り取ることが不可能になります。そうなると、この枝からトゥアックを採るのは終わりです。
●こいして1年ほど、何カ所かの花を切り落とすと、もう花は根元近くになってきています。そして花が咲かなくなってしまい、このジャゴー椰子のトゥアックを採る寿命は終わったというわけです。

ジャコー椰子は、ココ椰子と同じように、多目的に使われる重宝な木です。切り倒されたあとも、多くの役目が待っています。
「私もトゥアックを飲みたいな!」と言うと、どこからともなく、採りたてのトゥアックが入ったアクアのペットボトルが運ばれてきたりする。それはそれは甘くて美味しい酒です。チャレンジしたい方は、まめにバリ人に訊ねてみてください。きっと、美味しいトゥアックにありつけることでしょう。




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