「極楽通信・UBUD」



「夢日記 @ UBUD」





■迷宮に迷い込む


場所は、旧ソ連。
今は独立して○○スクと呼ばれる黒海に面した一国の小さな町。
なぜかそんな気がする。
夢の始まりは、老夫婦の経営するホームステイの居間から始まった。

私は友人(見覚えのない男性だ)と泊まっている。
2人とも、20代後半。
屋外が騒がしくなり、賑やかな音が聴こえてきた。
「祭りの行列があるんだよ」と老夫が教えてくれた。
私は、大の祭好き。
友人に「一緒に行くか」とも聞かず、外へ飛び出していった。
町のスケールに記憶はないが、左右にあるのは2〜3階建ての北欧風建物だった。
観衆を巻き込んで300人ほどに膨らんでいる行列は、道路いっぱいに溢れていた。
行列は、私の知識にない宗教儀礼のようだった。
季節のせいか、外はどんよりとした空模様。
数世紀前から伝承されていると思われる彩りも鮮やかな民族衣裳が物寂しげに映っている。
初めて訪れた町で地理はまったくわからないが、帰りは同じ道を戻ればいいだろうと、私は行列のあとについていった。
行列は広場に入っていって突然、私の視界から消えた。
振り向くと、道路には人影もなく静かになっていた。
この時点で、夢だと気づいた私は、このまま夢を終えることも出来るが、夢の続きを見ようと、ホームステイに戻ることにした。

すると、ホームステイの方角に向かって走っているワンマンバスが見えたので、後部ドアーから飛び乗った。
そんなに遠くまでは来ていないはずなので、座席には座らず、下車する場所を探して窓外に目をこらす。
そろそろ降りた方が良いだろう。
バス車内の前方に向かって歩き出し、ポケットに手を入れた。
愕然。財布を持ってきていない。
慌てて出て来たので忘れたのだ。
知らない土地で、言葉も通じないのに、お金を持っていないとは最悪の事態。
脊髄のあたりから冷や汗が吹き出す。
とにかく、バスから降りたい。
「お金を忘れた。あとでバス会社に届けるから」と運転手に伝えたいのだが、地元の言葉は話せない。
降りたいことをジェスチャーで伝えようとするが、運転手にはまったく通じない。
オロオロとする私をあざ笑うかのように、バスは無情にもホームステイの前を通り過ぎてしまった。
その後、途中下車する人もなく、バスは終点と思われる町の石畳の広場で止まった。
映画セットのような小さな町は、行き止まりで、背後は丘になっていた。
運転手は、私にバスの中で待つようにとでも言うようにして、バスから降りて行った。
ひとりで取り残されるのが不安で、私は運転手のあとを追った。
運転手に、私の降りたかった場所に連れて行って欲しかった。
お金なら、幾らでも払うという心境だ。
運転手は、雑踏の中をスタスタと足早に進んで行く。
何度か声を掛け、何度目かの交渉の末、彼は犬でも追い払うように掌を振った。
私は、あきらめて引き返すことにした。
来たと思われる方角に向かって歩き出す。
〈長い日記になってしまったが、あとしばらくお付き合いください〉

バスの終点があった場所がわからなくなっていた。
私は、明らかに違う場所を歩いている。
夢はどんどん悪い方向に向かっている。
不安と焦燥は、つのるばかり。
これは夢だ、ということはわかっている。
もう終えよう、もう止めようと思いながら、このあと、どんな展開になるのかも知りたい。
もしかすると素晴らしいことが待っているかも知れない。
もう少し、夢に付き合うことにした。

私は、丘陵にある村に迷い込んでいた。
道は上り坂で、左右に白土壁の家が不規則に建っている。
迷路のような道に、立ち竦んだ。
これ以上奥に進むのは危険だと感じ、回遊する道を選んだ。
あたりは薄暮になっていた。
緊張と寒さからか、小用をもよおした。
何もこんな時に、小便がしたくなることもないのに、と自分の体質を憎んだ。
立ち小便をするに適した場所が見つからない。
どこが適した場所だと聞かれても、返答に困るが。
急ぎ足で進むうち、高さ1メートルほどの雑草がまばらに生えた小さな荒れ地に出た。
人が通った所が、小道になっている。
私は、立ち止まるのも怖くて、歩きながら小用を足した。
これは男の特権だ。
小道の左側はなだらかな下り坂になっていて、その先には石畳の道があるようだった。
もしかすると、この石畳の道は広場に続いているかもしれない。
そんな希望を抱いて、私はその道に降りることにした。
すると、前方の坂から自転車を押して人が降りて来るのが見えた。
自転車が暴走しないように、足を踏ん張るようにして降りてくる。
自転車の人は、郵便配達員だった。
私が道に出ると、郵便配達員は、突然前に現れた私を見つけて驚いた顔をした。
日本人に似た顔立ちをしていた男性だった。
2人は、道の真ん中で対峙し、お互い何を言おうか悩んでいる。
私は、郵便配達員の口から出てくる言葉が、地元の言葉か、それとも日本語かを推し量っている。
地元の言葉だとすれば、アリ地獄に落ちるような最悪の夢が続くことになる。
日本語が話せれば、ホームステイに帰る希望が持てる。
私は2人を対峙させたまま凍結させて、善後策を練った。
コンマ数秒の思考の末、私はどちらも選ばず、夢を終えることにした。

夢の中で「これは夢だ」と気づいたり、結末を選ぼうとしたり、眠っているのに意識があるのだろうか?
夢とは、不思議なものだ。




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