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「ウブド奇聞」


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■犬猿の仲



ここに書く話は、ウソかホントか、判断は皆さんにおまかせしたい。
1990年某月某日の朝、一匹の犬が「猿の森」へ続く道を歩いていた。
「猿の森(モンキーフォレスト)」は野生の猿がたくさん棲んでいるところから、ツーリストが付けた名称だ。

犬は、のんびりとした足取りで[猿の森]の前に近づいていく。
昔から世界中どこでも、犬と猿は仲が悪いと相場は決まっているが、ここウブドでは、動物たちは共存している。
幾度となく通っている道で、いつも何の問題も起こらない。
そこへ一匹の成年猿が、大樹から飛び下りて来た。
成年猿は「ここはわれわれ猿の縄張り、犬どもを通すわけにはいかない」と言ったがどうかはわからないが、とにかく通せんぼをしたのだ。
彼女にでも振られたのか、成年猿は、よほど虫の居所が悪かったのだろう。
犬は「通せ!」、成年猿は「通さない!」と言い争いとなり、あげくの果ては取っ組み合いの喧嘩となった。騒ぎを聞きつけて猿の一団が現れ、犬は取り囲まれてしまった。
犬は、尻尾を巻いて逃げるのはシャクだが、多勢に無勢、ここはひとまず引き下がろうと、一目散にその場を逃げ去った。
村へ帰って犬は、その話をボスに告げた。
それを聞いた犬のボスは多いに立腹し「それは許せない。犬族のプライドを傷つけやがって。
戦闘だ」と言ったがどうかわからないが、とにかく戦うということになり、仲間に招集をかけた。

ここからが友人の目撃談。
友人はこの時、パダンテガル村のYの字から歩いて、もうしばらくで「猿の森」に到着するというところだったそうだ。
この頃、この道は両側は田んぼで、唯一、クブクの粗末な茶店があっただけだ。
パダンテガル村のYの字付近に、レストラン・ベベ・ブンギルが開店したばかりの頃でもある。
友人が歩いて来た方角から、犬の一団が黒い塊が地を這うように向かって来た。
その数100匹はいたと言う。
「猿の森」の木々には、猿たちが鈴なりにぶら下がって枝を揺すっている。
やはり100匹ほどはいたと言う。
この数は、どうみても誇張だと思うが。
道路は今のようなアスファルトでなく、土埃の上がる狭い野良道だった。
その道を、犬の黒い軍団が整然と並んで歩いていたと言うから、まさに劇画のような話だ。
今にも、ドゥドゥドゥと進軍するBGMが聞こえてきそうだ。
猿軍は、グレーの塊となって揺れていた。
まもなく、小川を隔てて両軍は対峙した。
梢が陽射しを遮り、昼なお暗い林道で戦は始まった。
土煙、水しぶきを上げての凄まじい戦いだったと、友人は当時を思い出しながら興奮気味に語った。
犬軍、猿軍、どちらも多勢の怪我人(?)を出して、決着のつかないまま戦いは終わった。

この戦いのあと、[猿の森]に近づく犬はいなくなり、こうしてウブドの犬と猿は仲が悪くなったと友人は言う。
友人の名前は、プンゴセカン村に住む、絵描きでガムラン演奏者のカデ君だ。
ムム〜ン。無さそうで有ってもおかしくない話。
カデ君の真剣な表情に嘘はないだろう。
わたしは、この話を信じることにした。皆さんはどうですか?




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