「極楽通信・UBUD」



ブト・カロ (bhuta kala)





オレたちは暗闇に棲むブト・カロである。オレたち闇に生きるものにとって、1日の中心は夜である。
人間どもは太陽中心的な眼に見える世界に棲んでいる。眼に見える世界があるのとまったく同じ場所に、人間どもには見えない、それよりもずっと生気に満ちて陽気な世界がある。それがオレたちの世界だ。

人間どもは、しばしばオレたちの領域に侵入してくる。深夜といえば、オレたちの行動がもっとも活発になる時間帯だ。特にティレム(暗月)の夜。そんな時間に、人間どもに徘徊されたのではたまらない。こんな時には、われわれは人間に悪戯することもある。
ついでに人間どもに忠告しておこう。昼から夜へ、そして夜から昼への境い目、そして太陽や月が天頂に来た時なども、オレたちが徘徊するのを好む時間だ。くれぐれも注意するように。
四つ辻にたむろする犬どもは、オレたちの下僕だ。われわれの代わりに、時々人間どもを驚かしている。愉快な光景だ。
オレたちは、いたるところにいる。庭のココナツにも、飛び回る鶏にも、眠っている皮膚病の犬にも、生命のあるものはもちろんのこと、一見生命のないように見えるものにも、いたるところにいて活動している。

むつかしい言い方をすれば、ブトはパンチョ・マホ・ブト(panca maha bhuta)と名づけられた5つの元素のことだ。プルティウィ・perthwi(地・固体)、アパー・ apah(水・液体) 、テジョ・ teja(火・光線)、バユ・ bayu(風・ガス)、アカソ・akasa(空・エーテル )だ。カロはそれらのエネルギーのこと。だから人間どもには、オレたちを見ることはできない。眼に見えない力の働き、それがブト・カロだ。

オレたちの仲間は、人間どもの弱味を見つけては、入り込もうと虎視眈々と狙っている。オレたちはおちゃめだから、人間どもに悪戯したいのだ。
人間どもが、もっとも注意しなければいけない場所は、谷、橋の上、窪地、大きな木の下などだ。
大昔、陽光の世界にバリ・ヒンドゥー教の神々が君臨し、オレたちの存在を人間どもは忘れかけたことがある。いつの世にも賢い人間はいるもので、オレたちのブト・カロの存在を研究し体系づけた集団がある。
バリアンと呼ばれる人間だ。彼らはオレたちと交感し、物事を解決しようと考えている。ブラック・マジックというやつだ。ブラック・マジックは、人間どもの心の弱味につけ込む。それに対抗するためには、人間どもは、いつも心を平穏にしておくことが必要だ。

バリは「神々の棲む島」と言われて久しいが、それはオレたちも含めて言われていると思っている。ブト・カロは、鬼神や妖怪などをあらわすサンスクリット語がもとになっているが、オレたちは決して鬼でも妖怪でもない、神と同じ役目もしていると自負している。
天界の神に対して、地界にはブト・カロ(悪神)がいて、人間を病気、その他の災いによって苦しめると言われるが、この悪神もシヴァ神の一側面だ。シバ神が妻ウマ神と交合中に落とした精液からブト・カロが生まれたとされるが、この言い伝えは、どうも気にくわん。

人間どもは見えないものに対して恐れを抱く。闇はつかみ所のない恐怖の対象だ。人間どもは、オレたちのために供物を捧げることを忘れない。それは、オレたちを怒らせると災いが起こることを知っているからだ。
オレたちに邪魔されたくなかったら、供物を捧げることだ。天空の神々に祭りや祈りを捧げる時には、必ず、オレたちブト・カロにも供物を与えること。そうしないと、オレたちは神々への供物を食べてしまうぞ。
ここバリでは、神々や祖霊へは、高い位置の祭壇にチャナン(canang)と呼ばれる供物を捧げ、ブト・カロへの供物はチャル(caru)、スガン(segehan・小規模なチャル)と呼ばれて地面に供える。
これら供物を総称してバンタン(banten)と言うらしい。
呼び名や位置がどう違おうが、オレたちには関係がないことだ。時々、奮発して、闘鶏や動物を生け贄にして血を大地に捧げてくれれば満足じゃ。これは、人間どもからオレたち贈られるプレゼントのようなものだな、フフフ・・・。

ついでに、もうひとつ一つ教えておこう。チャルを行う時間は、境界的な時間、例えば昼と夜の境目や太陽が真上に来た時などがよい。さきにも言ったが、この時間帯はオレたちが徘徊する時間だ。
チャルのもっとも大きなものは、エコ・ダソ・ルドロ(eka dasa rudra)と言われる祭礼だ。お前たちも聞いたことがあるだろう? 100年に1度、ブサキ寺院で行うことになっている。この時には、108種類の生け贄が準備される。それはそれは豪華なチャルだ。今から、オレたちはこれが楽しみなのだ、・・・ウシシ。

さて、儀礼の中で、3本の 竹の下に火をつけて、3回の爆竹の音を出すことがある。これは、儀礼の開始を告げるとともに、オレたちを追い払うために行う。名前をプニンプグ( peningpug)というらしい。オレたちは大きな音に弱いので、こんな爆竹でもびびってしまう。好きではないが、それで人間どもの気持ちが落ち着くなら良しとしておこう。
オレたちブト・カロと共存共栄することが、人間どもにとっては良策だと思う。それには、せいぜいプレゼントを怠らないことじゃ。
オレたちブト・カロは、いつも暗闇からお前たちを見ている。くれぐれも、弱味を見せないように注意することじゃ。ワッハッハッ・・・。

この原稿は、誰が書いたのなか。私(ito)は、こんなに上手には書けない。盗作だったのかな。もし「この文章は私が書いた」と、いう人がいましたら名乗り出てください。謝りますので。




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