「極楽通信・UBUD」



8「コピ・バリ」

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数年前のことだ。ウブドのレストランでコーヒーを注文する時、日本の発音で「コーヒー」といったら、店員にきょとんとされた。たしかに、コーヒーでは英語の発音ではない。しかし、このくらいの違いは察してほしいものだ(外国語の苦手な日本人の独り言です)。
インドネシア語でコーヒーのことは「コピ(kopi)」という。なんと可愛い響きの言葉だろう。バリ語も同じく「コピ」だ。ていねい語ではウェダン(wedang)という。
コピを変形させてコーピーならコーヒーと発音が似てるからと、レストランで「コーピーひとつ」と注文してみた。しかし、通じなかった。こんなに似ていても通じないのだから日本語のコーヒーではまったく通じないはずだ。もちろんコーピといっても通じなかった。コピーとのばせば通じるとは思うが、店員はきっと、きょとんとするだろう。そして「当店ではフォト・コピーは扱っていません」と丁重に断られるだろう。そう、コピーは日本と同様に複写(フォト・コピー)のことだ。やはりコピと、短く可愛く発音して注文しよう。


レストランで笑えるのは、メニューに堂々とインスタント・コーヒーのネスカフェがあるところだ。こんなことは日本では考えられない。しかしこれが、インスタントのぶんざいでコピ・バリより値段が高いのに驚いた。輸入商品だからだろう。割り切れない気持ちで、時々、懐かしさのあまりネスカフェ頼んでしまう。
インドネシアは、どの島もコピは栽培できる。日本人に知名度が高いのは、トラジャ・コーヒーだが、西ティモールのコピが美味しいという評判もある。
コピ・バリは、チャップ・クプクプ・ボーラ・ドゥニア(蝶と地球地図印)社がバリのマーケットを独占している。これはスーパーマーケットや免税店など、いたるところで販売している。
チャップ・クプクプ・ボーラ・ドゥニアのコピより、ウブドのパサールで売っているコピの方が安くて美味しいと、日本人長期滞在者たちの間で噂だ。
パサールでは、透明のビニール袋に入った家内工業生産のコピが500グラム単位で売っている。しかし、こうした店で売られているコピ・バリには、とうもろこしや米の粉が混ぜてあることがも多いと聞いている。混ぜ物の多いコピはあまり美味しくはない。
混ぜ物の入っていない美味しいコピは、プリアタン村にある「グヌンサリ=toko gunung sari 」で売っている。「アパ?」で販売しているウブド・イラスト・マップにのっているので購入してでかけてみよう。


今では、あまり作らなくなってしまい、めったにご馳走になれないが、もっとも美味しいコピは、家庭でもてなされる自家製のコピだ。チャンスがあれば、どんどん一般家庭を訪問しよう。思わぬところで、混ぜ物の入っていない純粋のコピ・バリが飲める、かもしれない。 田舎にいくと、たいていの家の裏庭にコピの木がある。コピの木は背が低く、手を伸ばせば実を集めることができる。実は15ミリほどで、赤く熟したら収穫する。小さな実を割くと、中から濃緑の豆が出てくる。豆は縦に切ったようにふたつに割れ、真ん中に線のあるおなじみのコピ豆が顔を出す。梅干しの種のように堅い豆だ。
焙煎方法は、よく乾燥させたコピ豆を大きなフライパンで30分ほど煎る。煎ったコピ豆は、石の臼に木の杵で突き砕き粉にする。砕いた豆は、目の細かい網でふるいに掛け、表皮は捨て、砕き足らないものはもう1度砕き直す。こうして何度もふるいに掛けた結果、パウダー状のコピ・バリが出来あがる。
飲み方は、まずコピを好みに応じてカップに入れる。これはインスタント・コーヒーを作ると同じ分量だ。ちなみに筆者は、マグカップで飲むのでティースプーンで2杯だ。砂糖を入れる人は、この時に入れてください。次に、沸騰したての湯をそそぐ。これが美味しくコピをいれるコツだ。そして、静かに混ぜる。しばらくパウダーが沈殿するのを待ち、上澄みを口にする。沈殿したコピを、飲まないためには少しだけコピ残す。これが、コピ・バリの正しい飲み方だ。
工場生産のコピにはないが、家庭で作られるコピには、ふるいを掛ける行程を省くので粒の大きなものも混じっていることが多く、口の中にざらっとした違和感があったりする。慣れてくれば、それも気にならなくなる。大きな異物は舌の先で起用に取り出し、ペッと吐き出しておしまいだ。もちろん、上品に指先で摘み出してもよい。
もっと旨くコピ・バリを飲む方法はないかと、ドリップしてみた。しかし、パウダーが細かすぎて、熱湯をさした時に、湯を含んで膨らむことをせず、泥状になってフィルターの目をつまらせてしまう。それでもなんとか、コップに満たして飲んでみたら、アメリカン・コーヒーを数倍薄めた味気ないものになってしまった。おまけに、まったく香りがしない。
豆の状態で買って、適度の大きさにコーヒー・ミルで挽いてドリップしてみた。しかし、こちらも味気ない結果に終わってしまった。


こんな話をよく耳にする。
バリの家庭を訪れると、必ずコピかテが出てくる。
遠慮して「飲んできました」と丁重に断ったとしても、訪れた客をもてなして帰すことが義務づけられているかのように、いつのまにか、蓋のついたグラスがかたわらに置かれている。ところがこれには、はじめから砂糖がたっぷり入っていてやたら甘い。
手作りのコピは嬉しいのだが、ここでもてなされるコピは、いきなり糖尿病になってしまいそうな激甘だ。もてなされた方としては、口をつけなければ失礼にあたる。甘いコピを飲めない人にとっては、拷問のようなもてなしだ。
訪問客に合わせて、砂糖を出すなんて習慣はないだろうし、気をきかせて砂糖を持ってきたとしても、めざといアリたちにあっという間にたかられてしまうことになる。
旅行者が気をつけなくてはいけないのは、ワルンでも、ときにはレストランでも「コピ・パヒ=苦いコピ」とか「タンパ・グラ=砂糖抜き」としっかり断らないと、砂糖の入った甘いコピやテが出てきてしまう。
砂糖を入れる理由は、グラスが割れるのを防ぐためだ(バリでは熱いコピもテも、厚手のガラス・コップで出てくる)とか、貴重な砂糖でお客様をもてなすのが誠意につながるからだ、とか事情通はいうが、どうやら本当のところは、単にバリ人が甘いのが好きなだけだのようだ。
彼らにいわせると「渋いコピの味と甘い砂糖のふたつの味を楽しむために、渋過ぎもせず甘過ぎもしない、適度な味にしている」という。渋味の効いた甘さ、といいたいのだろうが、そうとは思えないほど甘い。
バリ人の味覚がよくわからないのは、料理はやたらと辛いのに、こういうものは甘いのが好きなようだ。もっとも、辛い料理に甘いテはよく合うと思う。


こんなコーヒー好きの要望に応えるように、ウブドに美味しいブレンド・コーヒーを出してくれる店が1997年にオープンした。店名を「カフェ・アンカサ」と言う。オーナー自ら焙煎するコーヒーは、日本の珈琲専門店にも見劣りしない味を提供している。




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