「極楽通信・UBUD」



28「行商(Dagang berjaja)」





軽くなると重くなるものは、なんでしょう?
答えは、今回紹介する行商です。
商品が売れると荷物が減り軽くなり、財布の中身が重くなるというわけです。
インドネシア語では、売り歩く(Berjaja)商人(Dagang)でダガン・ブルジャジャ(Dagang Berjaja)とも、売る(Penjual)めぐり歩く(Keliling)でプンジュアール・クリリン(Penjual Keliling)とも呼ぶ。バリ語ではアンチュン(Anchun)。
商売繁盛とは、商売半畳とも書く(?)。半畳とは畳の半分。人がひとり立ったり、座ったりすることのできる広さだ。店がなくても物を“見せ”ることができれば、人ひとり分のスペース、半畳もあれば商売ができる。思い起こせば35年前、わたしにも路上でアクセサリーを売っていた時代があった。専門用語(?)で「道売り」と言っていた。しかしこれらは、スペースの必要な露天商だ。
世の中には、半畳も必要のない商売もある。それが、商品を持って売り歩く行商だ。
日本もその昔は、家にいながらにしていろいろ物が買い揃えられた。富山の薬売りなどは、訪問販売の元祖だ。夕方の豆腐売りの笛の音。金魚売り、風鈴売りなどは夏の風物詩である。そして、竿竹売り、コーモリ傘の張り替え、焼き芋屋の呼び声などは、落語のネタになるほど風情があるものだった。


それでは、バリの行商を紹介しよう。
商売半畳と言っても、バリの行商はどれも決して繁盛しているようには見えない。そしてそれらは、おおいに便利な商品から、そんな物まで「売り歩くの?」と思わず苦笑してしまう物まで多種多様だ。
クタ、サヌールなどのリゾート地のビーチには、おなじみの三つ編み、マッサージ、マニキュアおばさんが出没する。そしてビーチならではのゴザ、日傘のレンタル、サングラス売りがいる。また土産物、たばこ、飲み物の物売りが行き来し便利でもある。
キンタマーニやティルタ・エンプルなどの観光地の駐車場では、木彫りや笛をバスの窓越しに売りにくる。こんなことで売れるのかと、他人ごとながら心配になってしまう。

そしてウブドでは。
道端に座り込んでボーとしていると、さまざまな行商人が通り過ぎるのに気がつく。これはまさに、パフォーマンスを見ているようでもある。これもウブド滞在を楽しむひとつの方法だ。
驚いたのは、木製ベッドを1台かついで通り過ぎる力自慢の男。ベッドが簡単に売れるとは思われないが、こんな大きな物を一日中かついで売り歩いているのだろうか。そして偶然なのか、そのうしろからは、ベッドのマットをかついだ物売りが通る。さらにそのうしろからは、マクラ売りまで通って行く。これで寝具のフルセットがいっちょう上がりである。
天秤棒に、机と椅子のセットをかついでいるおじさん。この人も遠くの村から歩いて来るようだ。暑い陽射しの中、見るからに暑苦しいヌイグルミを身体中にいっぱいぶらさげて歩く男。金物、靴、傘の修理屋さん。自転車にこれでもかというほどぶらさげている、おもちゃ屋と雑貨屋。サルン(布)や化粧品などの行商人は、家の庭先まで入って来て、雑談しながら商品の交渉をする。キンタマーニ犬の子犬一匹を抱えて歩いている人。そのほかにも、鳥、風船、石臼、壺、ジャムー(インドネシアの漢方薬)、ジャジャン(バリのお菓子)、アイスクリームなどなど。
そうそう忘れてならないのに、カキ・リマと呼ばれる移動屋台がある。カキ・リマとは、脚(カキ)が5つ(リマ)あるという意味で、車輪が四つに引き手の主人の脚を入れてカキ・リマとなる。ウブドでよく見かけるのは、車輪が2つのカキ・ティガの移動屋台だ。
代表的なものに、バッソー=Bakso(肉団子入り、具たくさんスープ)。ルジャック=Rujak(甘くて、塩からくて、酸っぱくて、辛いフルーツ・サラダ)、タフ=Tafu (揚げ豆腐)、サテ・カンビン(山羊肉の串焼き)などがある。おやつ感覚の軽食で、道端に座り込んで食べるのが、いい。デンパサールには、肉まん・アンまんのカキ・ティガがあリ誘惑される。


マットマット売り
雑貨雑貨屋
ぬいぐるみぬいぐるみ屋
ルジャックルジャック屋


ウブドも発展し、今では東にデルタ・デワタ、西にビンタンという中規模スーパーマーケット、そして町中にコンビニエンス・ストアーが出店している。これからの時代、行商は成り立っていかなくなってしまうのだろうか。今後数年の間に、行商人の姿が消えてしまうのか、それとも、時代にマッチした行商が現れるのだろうか。ツーリストのかってな意見を言わせてもらえば、バリの風物として、これらの行商も残って欲しいものである。


※45「ワルンでごはん!」も併せてお読み下さい。