「極楽通信・UBUD」



トゥルニャンの伝説(Trunyan)





☆バリ・アガ(Bali Aga)の村・トゥルニャンの伝説です。


むかしむかしのお話です。
ある日、スラカルタの王の4人の子供たちは、どこからかすてきなよい香りが流れてくるのに気がつきました。その香りのもとが一体何なのか知りたくて、彼らは旅に出ることにしました。4人のうち3人は王子、一人は王女でした。
旅をするうちに彼らはバリの島までやって来ました。
まず足を下ろしたのはバリ東部、カランガセムとブレレンの境目にあたる、チュリク・カランガセム村とテピ村のあたりでした。彼らはここに着いて、ますますよい香りが強くなっていることを感じました。そして内地のバトゥール山へ向かうにつれて、いよいよそれは強く香ってきました。

彼らは険しい道や困難に屈することなく歩き続け、いくつもの密林と森をくぐり抜けました。
バトゥール山のふもとに着くと、彼らのうち王女はバトゥール寺に泊まることにしました。
「この場所がとても気に入りました。なんてよい景色なのでしょう。私はずっとここに住みたいと思います。兄さん、わたしはこれ以上旅を続けるのはやめます。許してください。」
「妹よ、それがお前の望みなら、ここに住むことにしたらいい。」
長男の王子は答えました。
それ以来王女は、女神ラトゥ・アユ・マス・マクテグと呼ばれるようになりました。

残った3人の王子は旅を続けました。
バトゥール湖の岸辺にそって歩いていくと、湖の西南に広がる平野で、一羽の鳥の声が聞こえました。その鳥はバリではクディスと呼ばれていました。そこでこの場所はクディサンと名づけられました。末の王子はこの鳥の声にたいそう喜んではしゃぎまわりました。とうとう長男の王子は怒ってこう言いました。
「お前はこれ以上私たちと旅をともにしてはならない。お前のその騒ぎようは何事だ。私たちについてくるのにふさわしくない行ないだ。」
「いやです! ついていきます! どうしても香りのもとを知りたいのです。」
末の王子はせがむように言いました。
「だめだ。ここから立ち去れ!」
長男は叱責しました。それでも末の王子は言い張り続けました。
ついに長男は弟を蹴り飛ばしました。弟はくずおれてすわりこみました。今でもクディサン村にはこの時の弟の姿を模した像があります。そしてラトゥ・シャクティ・サン・ジェロと呼ばれるようになりました。7重の屋根をもつダルム・ピンギット寺院にこの像は安置されています。

末の弟をそこに残して、2人の王子は湖の岸を東へ進みました。そしてそのうち2人の若い女性に出会いました。1人はすわってもう1人に髪のしらみをとってもらっていました。
久しぶりに人間と出会ったので、次男の王子は喜んでその女性に声をかけました。これを見た長男は快くありませんでした。
「お前ももうこれ以上ついて来るな。」長男はきびしく言いました。
「お前の態度にはがっかりした。この旅を続ける資格はない!」
「いっしょに行きます。ここに1人でおいていかれるなんていやです!」
次男はせがみました。
「命令に逆らうんじゃない。」
長男は言いました。
それでも次男ががんばるので、しまいに長男はひどく怒って次男を足でけりつけました。次男はひっくり返って倒れました。長男はそのまま弟を残して去っていきました。
この村はアバン・ドゥクと呼ばれるようになり、ひっくり返った石像が残されました。アバンというのはそれより以前ここがアイル・ハワンという名で知られていた名残です。
残念ながらこの石像ラトゥ・シャクティ・ドゥクのある寺院は1963年のアグン山の大噴火の時、火山灰をかぶって崩壊してしまいました。石像も埋れてどこかへいってしまい、今では見ることができません。

弟と妹がこうして途中でいなくなり、長男の王子はただ1人で北へと旅を続けました。そして切り立ったバトゥール湖の岸にそっていくと、再び平野に出ました。そこには美しい女神がただ1人、タルムニャンという木の下にすわっていました。女神の美しさはそれはたいそうなものでした。そして彼女のすわっているそばの木こそ、ずっと探し回っていた香りのもとだったのです。
王子は女神にすっかり心をひきつけられ、彼女をしっかり抱きしめました。そして女神の兄に彼女を妻にめとりたいと願い出ました。願いは聞き届けられました。
「ただし、これから言う条件を果たすことができたらだ。そうしたら妹を嫁にやろう。」
「どんな条件でしょうか。」
「この土地の長として治めるつもりがあるか」
「もちろんです!」王子は即座に答えました。
こうして王子はその村の長となりました。今のトゥルニャン(Trunyan)村がこれにあたります。
すぐに結婚式が行われ、祝宴が催されました。その後、だんだんと村は発展し、小さな王国になりました。スラカルタからやって来た王子はラトゥ・シャクティ・パンチェリン・ジャガトと称号を与えられました。
王国はトゥルニャンと名づけられました。遠くジャワ、スラカルタまで届くほど強い香気を放つ木タルムニャンにちなんでつけられたものです。
この香りにひかれて外地から侵入者が来ることを恐れた王は、この木の芳香がもれないようにすることを命じました。
これからは亡くなった者の遺体は地に埋めずに地面に寝かせるだけにせよ。」
このためトゥルニャン村のタルムニャンの香りは他の地へもれることがなくなったのです。同時に、村人の遺体は埋められなくても悪い匂いがしないのは、この木の香りのためなのです。
王と女王が世を去ると、2人は神々の仲間に加えられました。その名はラトゥ・シャクティ・パンチェリン・ジャガトとラトゥ・アユ・ピンギット・ダラム・ダサルです。この神は今トゥルニャン村の人々にとって最高神とされ、女神はバトゥール湖の守護神とみなされています。


(バリ島の伝説・友人から寄稿)
(2010/7/27)




Information Center APA? LOGO