「極楽通信・UBUD」



58「トッケイの鳴き声(Tokek)」





ここはインドネシアのバリ島中央部に位置する小さな村ウブド・テガランタン。
常夏の島の昼下がり、「グググ」とクグモッタ声に続いて「トッケィ・トッケィ・・・」と、甲高い鳴き声をたてた。
これは当地で、一家に一匹は棲みついている「トッケイ」だ。
7回続けて鳴くと、幸運がおとずれると信じられている。
ググってみると、学名はゲッコー(gekko=gecko)、爬虫網有鱗目ヤモリ科ヤモリ属に分類されるとあった。
インドネシアではトッケイ、ベトナムではカッケーと呼ばれる。
どれも鳴声からきた名称だ。
とてもヤモリとは思えないような高声なので、慣れないうちは驚かされる。
身の丈30センチ近くになり、ぶよぶよのゴム質の肌に、小さな赤い斑点だったリ青点が散らばっていたりする。
デカイ顔と小太りの身体にドット柄をまとったトッケイは、遠目には可愛いい。


トッケイ


「日本料理店・影武者」に、トッケイが2〜3匹は棲息している(↑写真)。
必ずと言えるほど、夜10時を過ぎる頃、天井に近い柱の角に登場する。
時には、ランプの中に入って小虫を捕食する。
壁をノシノシと渡り歩き、餌を捕獲する時は敏捷に動く姿を見ることが出来る。
こんな案内して女将に叱られないかな。

我が家のトッケイの話をしよう。
吸盤にホコリでもついたのか、たまに落ちてくることがある。
手元に落下してきた時には、さすがにビックリする。
普段は屋根裏に姿を隠していて、食事かトイレの時に表に出てくる。
彼らのトイレは、たいてい、場所は決まっている。
天井の、そして、なぜか角地が多い。
尻尾をあげてお尻を出して、力む。
少しの水分と大きなウンコを落とす。
目の前のコーヒーカップに、ポチャン・・・・。
気づかずに一気飲み。
以前、干しぶどうに紛れ込んでいたのを知らず、口にしたことがある。

一週間ほど前から夜中になると、私の部屋の天井裏でトッケイが鳴くようになった。
天井裏のトッケイは、アヒルのようにグァグァグァと始まり「グァゴー・グァゴー」と鳴き、グググと終わる。
天井全体が反響効果になっていて、号砲のように大きな鳴き声が頭上で響く。
驚いて飛び起きてしまう。
愛猫チビタは、鳴き声の数だけ身体を震えさす。
幸い3〜4回で鳴く止むので我慢もできるが、これが幸運を呼ぶと言われている7回も鳴かれたらたまったもんじゃない。
「もうケッコー!」と言いたくなる。
遠くで聴こえる、間延びした鳴き声は風流だ。
トッケイの鳴き声にも、それぞれが微妙に違う個人差(個トッケイ差)があることに気がついた。
聞き手によっても個人差&国民差があるようで、欧米人には「ファックユー・ファックユー」と聞こえる人もいるらしい。
竹筒の中で鳴くトッケイは。ポッポッポと始まり「ポッポー・ポッポー」と鳴き、ポロポロで終わる。
竹筒の反響がよろしいようで、ソフトな声だ。
あなたには、どんな風に聴こえていますか?

※蛇足です
つけっぱなしのテレビから、トッケイと言う単語が聞こえてきた。
振り向くと、トッケイの腹をハサミで裂くシーンが映っていた。
何のニュースをやっているのだろうと、テレビの前に移動した。
次に映ったのは、家内工場の風景だった。
忙しく働く女性達の作業台の上には、ウチワのようなものがうず高く積まれている。
ウチワは、小動物の剥製のように見える。
よ〜く見ると、それはトッケイの薫製だった。
大きさの揃ったトッケイが、開きになって串に刺されている。
立派な頭がついている。
数百匹はいるだろう。
この数を確保するためには、養トッケイ場があるはずだ。
金網で造られた大きな鳥かごを、思い浮かべた。
養トッケイ場いる多数のトッケイが、一斉に鳴く光景は凄まじいだろうと想像する。
トッケイが、姿を見せて鳴くところを見たことはない。
あまり近寄りたくくはないが、怖いもの見たさで見学したい。
「ゲッコー・ゲッコー」「グァゴー・グァゴー」「ファックユー・ファックユー」「ポッポー・ポッポー」の合唱は、いったいどんな音響になるのだろう。
ジェゴグのムバルンのように、壮絶な音の戦いになるのだろうか。
もしかして、重低音が心地よい響きになるのかもしれない。
トッケイはどんなタイミングで、そして、なぜ鳴くのだろう。
何かの意思表示でもあるのかな、ふと思った。
「求愛のメッセージかも」と知人は言った。
トッケイに雌雄があるかどうか無知だが、鳴いているのはオスかもしれない。
クジャクのオスが自慢の羽根を見せるように、艶やかの声でメスに呼びかける。
トッケイのメスには、あの音色に悩殺されるのか。
ニュース・キャスターのコメントでは、取材は東ジャワ(ジャワ・ティモール)のようだ。
聞き逃して地名はわからない。
「かゆみ止めに効く」「アラックに混ぜて飲む」と言っている。
インドネシアの伝統的薬用ジャムーとして、輸出しているようだ。
私の語学力では、これ以上は理解できなかった。
バリ人でも、トッケイを丸焼きにして薬として服用していると聞く。
効能のほどは定かではない。

※付録です
シドゥメン村に行く途中のことです。
「私の家は貧乏だったからトッケイをサテ(sate)にして食べていました」
アパ?スタッフのヤンディ君が、ハンドルを握りながら衝撃的な発言をした。
「味は鶏肉みたいで、身体が熱くなってくる」と、ヤンディ君は懐かしそうにつぶやいた。
食用と言えば、バリ人はチチャッも食べていた。
チチャッも壁に待機していて、蚊を捕食する益虫である。
これは可憐な、素速い、よく働くトカゲで、ランプの灯に寄ってくる虫をせっせ食べてくれる。
夜じゅうお互いにチッチッと鳴きかわしつつ勤勉に働き、朝の光といっしょにどこかへ消えてしまう。
チチャッには、グレー色の濃い種族と、透けるような色白の種族がいる。
「色白のチチャッは鶏肉のように美味しいよ」とテガランタン村のオカちゃんは言う。
串に刺して、イカのように姿焼き。
「サテ・チチャッ7本、おまちょど〜さま」
チチャッは、デウィ・サラスワティの化身だと言われている。
デウィ・サラスワティは、学問と芸術の女神。
会話の途中に「チチ」とチチャッが鳴くと「今の話は神様が認めているよ」ということらしい。
えっ! デウィ・サラスワティの化身を食べて、罰は当たらないのか。
そして、銀色に輝く肌を持って庭をはいずっているトカゲも食べる。
バリ語でルラサン(Lelasan)、インドネシア語ではBengkarungと呼ぶトカゲ。
バッソのスープに入れて食べると美味しいらしい。
「エナッ(おいしい)」と影武者のウエーター、ワヤンは言う。
試食したいと言うと「捕まえるのがたいへんです」と真顔で答えた。
「蛇に似た味だよ」ウエートレスのダユーが会話に参加して来た。
ダユーは、蛇を食べたことがあるのか?

小動物の鳴き声を聴くも文化、食するもバリの文化。
ウブドの旅を一層楽しくしてくれる文化アイテムでもある。


(2013/11/30)




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