チャカプンは結婚式、葬式、その他の儀式などで披露される、バリ東部カランガッスム地方独特のパフォーマンスだ。
今では、唯一村にしか残っていない。
男たちが車座に坐る。
語り部が、物語を謡うように語る。
しばらく、語り部の謡と竹笛スリンとルバブと呼ばれる胡弓に似た弦楽器が朗々と続いたあと、いよいよ他の大勢の演奏が賑やかに加わる。
演奏と言っても口(声)でガムランの音色を模して合唱するのである。
「ブンブン、ブンブン」と正確なリズムをとるガジャール(銅鑼)「チャカチャカチャカチャカ」とチェンチェン(シンバル)「ドゥドゥ、ダッ、ダンダン、ドウン」とクンダン(太鼓)など、おのおの絶妙なリズムでガムランのメロディーを奏でる。
そこへ、車座になった者の中から2人が、すり膝で車座の中央に 出て坐った姿勢で上半身だけで踊る。
2人は向かい合い、ジェスチャーの動きを混じえて掛け合いする。
喧嘩の真似をしたり鉄砲を撃つ仕草は、バリ王朝時代の物語に基づいている。
物語は八種あると言われている。もちろんアドリブも多い。
カッと見開いた眼で威嚇する。
相手は、それに答えてすっとぼけた顔をする。
表情はユーモアたっぷりでおもしろおかしく演じられる。
夜、椰子酒を飲み交わしながらはじまり、興がのれば翌朝まで続くという。
チャカプンのルーツは、ロンボク島西部のチャプンと言われており、次のような経過でバリに持ち込まれた。
時は18世紀。オランダによる支配がバリに及ぶ以前のことだ。
バリ東部カランガッサムの王国は、バリの中でもっとも勢力を誇っていた。
王国は、隣の島ロンボク島に勢力を伸ばそうと、ロンボク島西部チャクラヌガラの王国を攻めた。
1740年、戦いは勝利を治めロンボク島を支配し、その後、多くのバリ人が住みついた。
ロンボク島西部にカランガッサムから渡ったバリ人が多いのは、そのせいだ。
カランガッサムの兵士は、そこチャクラヌガラでチャプンを見た。
兵士たちは、異郷で暮らす寂しさを紛らすため、故郷のガムランを思い浮かべてチャプンを楽しんだのだ。
やがてオランダがロンボク島を支配し、兵士たちは帰郷することになった。
こうして、兵士たちは故郷カランガッサムに、そのユニークな芸能を持ち帰った。
今では、唯一ブドゥクリン村にしか残っていない。元祖チャカプンのロンボクでは、チャプンと呼ばれ、現在、6つのグループがチャクラヌガラ地域で活躍している。
バリにゲンジェカンと呼ばれるチャカプンに似た芸能があるが、このルーツはチャカプンだ。